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2019.8.28 更新

スタート迫るキャッシュレス消費者還元
~駆け込み減資、課税所得基準くぐり抜け、そして還元の嵐のおそれ~

根本 重之
公益財団法人流通経済研究所 理事/拓殖大学 名誉教授

コンビニ・・・全店で2%実質即引き

 コンビニは、直営店分は本部負担とすることにより、既報の通り全店で2%の実質即引きをする。9月中には、全国5万店を優に超えるこの業態の店舗に予告の広報ポスターが貼られ、10月1日以降、たぶん旗や横断幕もはためくなか、還元が始まるだろう。
 全店売上高ナンバーワンのチェーンを含め、コンビニ各社の加盟店が政府支援を受けて、税率が上がらない飲食料品、またこうした還元・割引にはそぐわなさそうな煙草や酒も2%実質即引きするのだから、これだけでもかなり凄い話だ。

スーパーなど・・・「駆け込み減資」と「課税所得基準くぐり抜け」も

 スーパーなどでは、資本金5000万円以下かつ売上高500億円以下のチェーンは、ほとんどが5%還元支援の対象になると見てよいだろう。全般的に利益率がそれほど高くないからだ。
 これらに加え、資本金が5000万円超であるため、資本金基準に抵触するが、それほど利益が上がっておらず、課税所得基準を満たす企業は、減資をすれば、5%還元支援候補になれる。同じ地域の競争者と5%の実質的な価格差がつくのは恐ろしいことであるから、当然の企業行動として、そうした企業は減資する。ここではそれを「駆け込み減資」と呼んでしまおう。
 昨年冬からこの7月末までの期間で、スーパー等では70社ほどの減資公告に接してきた。そのなかには、何と売上高ほぼ2000億円規模が1社あり、同500億円~1000億円規模は10社強、250億円~500億円だと20社弱を数えるところとなっている。
 なお、ドラッグストアは、業界の上位集中度がすでにかなり高くなっているため、スーパーほどの動きはないが、それでも5社前後の減資企業を確認している。

 また、スーパー等では、「課税所得基準くぐり抜け」といったケースも見られる。
 5000万円以下という資本金基準は満たしているが、売上高が500億円を超えており、15~17年度の3期平均では15億円の課税所得基準にかかると見ていた企業の動きだ。これら企業のなかには、2018年度の課税所得が低下するか、あるいはそれを意図して引き下げることにより5%還元を得ようとする動きが出ると予想してきた。そうした動きが当然ながらやはり出た。売上高が1000億円超の企業が1社、500~1000億円の企業が数社にのぼりそうである。
 駆け込み減資、課税所得基準くぐり抜けを果たした企業の多くは、地域市場において、一定の影響力をもち、業界では十分名前の知れた企業だ。

生活協同組合

 生協は、資本金基準が外され、課税所得基準のみとなったこと、それに加えて、中小法人と同様に「欠損金繰越控除について、所得金額の100%まで損金算入可」(法人税法)ともなっているため、コープみらい、大阪いずみ市民生協、おおさかパルコープの3つを除く全生協が5%還元支援候補になると見ている。そのなかには17年度供給高で見ると、2000億円台が2組合、1000億円台が2組合ある。だたし口座引き落としはキャッシュレス決済とは認められないため、宅配分をクレジットで支払える少数のところを除き、店舗でのキャッシュレス決済中心の5%還元となる。それにしても規模の大きなところがある地域を中心に、小売競争に影響が出ることだろう。

EC・・・アマゾン出品者だけで還元額300億円との報

 日本経済新聞8月16日朝刊によれば、アマゾンを通じた中小企業の商品販売額は年間9千億円に達し、還元額は最大300億円超に膨らむ可能性あるということである。9千億円すべてが5%還元なら、還元額は450億円となるところ、少なくともその3分の2がキャッシュレス決済と見て、300億円超になるということであろうか。
 なお、同紙によれば、楽天とヤフーは中小企業の商品の販売額を明らかにしていないが、外部事業者の出品の比率が高いことから、還元額はアマゾン以上になる公算が大きいということだ。これに対して、経産省は数百万店舗の参加を目指し、7月中の申請を呼びかけていたが、8月1日時点での申請数は約28万店舗に留まるとのこと。ネットと店舗の還元競争は、積極的な事業者が多いネットに軍配が上がりそうだということになる。
 ちなみにはじめに触れた8月21日現在のリストには、固定店舗約14万店とともに、楽天市場、Yahoo!ショッピングとしてそれぞれ2万店強の出店者が名を連ねている。

 ではこうしたキャッシュレス消費者還元が行われた場合、消費者の購買行動や支援を受けない大手チェーンの対応はどうなるのだろう。弊研究所の機関紙『流通情報』本年5月号の「視点」に書いたところをあまり出ないが、簡単にまとめておこう。

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