ISSN 2433-9784(オンライン)
ISSN 0389-7672(冊子版)
「流通情報」は、流通経済研究所の機関誌として1967年に創刊した雑誌です。現在隔月刊で発行しておりますが、流通・マーケティングの専門誌として評価をいただいております。内容は、流通・マーケティング関連の最先端の論文や、当研究所の研究報告、業界動向を流通・マーケティングの視点から抄録したもの等を掲載しています。
隔月刊:年6号発行、A4版 約100頁
年間購読料:30,000円(税込33,000円)[Web誌面閲覧サービス含む]
加藤 弘貴
公益財団法人流通経済研究所 専務理事
2020年から3年にわたる新型コロナウイルス感染症の流行は、消費者の生活行動を変容させ、小売業の経営に多大な影響を及ぼした。そして2023年5月にはいよいよ新型コロナウイルスの感染症法上の分類が「5類」に引き下げられる。消費者の行動制約がなくなる中、ポストコロナの小売業態は今後どのように変化していくだろうか。このような問題意識に応えるため、本号の特集テーマは「小売業態構造変化の展望」と設定することとした。
ここで小売業態の今後を考えるベースとして、経済産業省の商業動態統計より、主要業態の商品販売額の動向を確認しておこう。2016~2019年の変化はコロナ以前のトレンドを、2019~2022年はコロナ後の動向を示している。各業態の動向は以下の通りである。
スーパー(総合スーパーと食品スーパーの合計):コロナ以前も食料品は堅調であったが、コロナ以降は内食需要の拡大により2兆円以上の大幅増収となっている。
コンビニエンスストア:オフィス需要等が縮小したこと等により2020年にはじめて減収となったが2022年にはコロナ前の水準に回復するところとなっている。
ドラッグストア:コロナ特需の加減による変動はあったものの、コロナ以前もコロナ以降も継続的に成長し、業態規模を拡大している。
百貨店:コロナ以前から規模縮小傾向にあったが、2020年に大きく落ち込みその後回復しているものの、コロナ前の水準に届いていない。
家電大型専門店:2020年に巣ごもり需要等によりコロナ以前からの成長を加速したが、その後の業態規模は横ばいで推移している。
ホームセンター:コロナ以前はほぼ横ばいで推移し、2020年に巣ごもり需要等により規模を拡大、だがその後は縮小傾向となりコロナ以前の業態規模に戻りつつある。
無店舗小売業:これまで見てきた店舗業態と異なり、標本調査に基づく拡大推計のため誤差が大きい数値であることを割り引く必要があるものの、コロナ以降の販売額は大幅に増加している。
田村 彰浩
総務省 統計局 統計調査部 消費統計課長
我が国におけるネットショッピングについては、新型コロナウイルス感染症による最初の緊急事態宣言が出た2020年4月頃から、利用世帯の割合も支出金額も大きく上昇した。実店舗を含めた消費支出額の増減の動きとは異なり、その後の行動制限の有無や感染状況にかかわらず、利用世帯の割合は高止まりし、かつ支出金額は増加を続けている。一度ネットショッピングを利用した消費者は、心理的障壁が下がり、その後も安定的に利用し、かつ支出金額を増やすという意味において、「物が売れない時代」に今後の小売業の発展を考える上で示唆的である。
キーワード: 消費支出、ネットショッピング、新型コロナウイルス感染症、心理的障壁、デジタル・トランスフォーメーション(DX)池田 満寿次
公益財団法人流通経済研究所 主任研究員/「ショッパー・マーケティング研究会」主宰
新型コロナの感染拡大や、急ピッチな物価上昇と、近年の買い物環境は目まぐるしい変化が続いている。消費動向や買い物行動の先行きを見通すのが難しい中、足元で顕在化する変化にいち早くキャッチアップすることが一層重要になる。流通経済研究所「ショッパー・マーケティング研究会」では毎年、全国規模の買い物調査を実施している。
本稿では22年12月に実施した調査結果を用い、物価高への向き合い方など買い物意識をめぐる注目すべき変化や今後に向けたポイントを考察していきたい。
木島 豊希
公益財団法人流通経済研究所 客員研究員/関東学院大学 経営学部 専任講師
本稿では、流通経済研究所が自主研究として行った、食品小売市場における小売業態構造の現状分析と将来予測について、これまでの成果をもとに検討した最新の結果を紹介した。現状分析では、食品小売市場が2011年度から2019年度まで増加傾向にあるなかで、「スーパー」と「生協宅配」のシェアが横ばいで推移し、「CVS」、「DGS」、「EC」が上昇してきたことを示した。将来予測については、食品小売市場が人口減少と高齢化の影響を考慮して2040年度に向けて減少するなかで、主要5業態全てのシェアが上昇すると推計した。ただし、この上昇には新型コロナウイルス感染症の感染拡大による影響が考慮されており、例えば「スーパー」は大きく上昇した2020年度以降にはあまり変化せずに推移する一方で、2020年度に低下した「CVS」はそれ以降に上昇すると推計した。
キーワード: 食品小売市場、小売業態構造、現状分析、2040年度までの将来予測、流研ロングタームフォーキャスト後藤 亜希子
公益財団法人流通経済研究所 主任研究員
食品スーパーの経営は2010年代を通じて厳しいものとなった。生活必需品のため安定していると言われる食品の売上も減少し、既存店の売上高が落ち込むようになったうえ、コスト比率は下がらなかったためである。
だが2020年初めより新型コロナウイルス感染症が拡大して外出が難しくなってから、それまで低迷していた食品スーパーの売上は大きく伸長した。コロナ2年目以降も感染拡大の影響は継続しており、さらにコロナ3年目からは原材料高、原油高による値上げが食品スーパーの業績に大きく影響するようになってきた。
本稿では、コロナ拡大2020年初頭以降2022年末までの、食品スーパーの月次既存店売上高前年同月比とその19年同月比の状況をレビューする。また食品スーパーの2022年度上期決算データも一部使い、堅調な企業、苦戦する企業とその展開について比較検討する。そのうえで、今後食品スーパーが取り組むべき課題について考察する。
神谷 渉
公益財団法人流通経済研究所 客員研究員/玉川大学 経営学部 教授
Gauri et al.(2021)は、オンラインとオフラインの小売業態の進化を捉えるためのフレームワークを提唱しており、カスタマージャーニーの情報探索と購入段階にアプローチする「体験の拡大」と顧客の商品入手と返品の段階にアプローチする「摩擦の削減」の双方の視点から業態の革新を捉えている。本稿では、このフレームワークを用いて、統計情報による把握と業態における店舗革新の取り組みから、米国の小売業態の進化に関する分析を行った。その結果、百貨店やスーパーセンターなど比較的大型店舗を展開する業態が「摩擦の削減」を重視した業態開発を行っており、スーパーマーケットやドラッグストアなど店舗面積が比較的限られている業態は「体験の拡大」を重視していることが明らかになった。
キーワード: 米国の小売業態、オムニチャネル、百貨店、スーパーセンター、スーパーマーケット石原 武政
公益財団法人流通経済研究所 顧問/大阪市立大学 名誉教授
須永 努
早稲田大学 商学学術院 教授
資料情報センター TEL:03-5213-4531(代表) FAX:03-5276-5457