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コラム

2020.10.15 更新

コロナ下におけるISMとショッパー・マーケティング

鈴木 雄高
公益財団法人流通経済研究所 主任研究員

コロナ下の買物風景

 新型コロナウイルス感染症の拡大は、日常の買物風景を一変させた。入店時に手指消毒をする来店客、買物かごや買物カートを消毒する従業員、レジで従業員と客を仕切るビニール・シート、レジ待ち行列の立ち位置を示す床面のサイン、売場に並ぶ個包装された総菜類などは、すっかり馴染みの光景となっている。そして、店内のショッパー(買物客)もまた、ウイルス感染予防を意識した行動をとるようになっている。
 本稿では、コロナ下におけるショッパーの意識を確認し、インストア・マーチャンダイジング(ISM)やショッパー・マーケティングによる対応について考えてみたい。

ショッパーが感染予防のために行っていること

 図表 1は、流通経済研究所が3か月毎に実施している「ショッパー・マインド定点調査1)」(2020年7月)で全国の2,546人に聴取した、「新型コロナウイルスの感染予防のために日常の買物で行っていること」の回答結果(抜粋)である。「店内ではなるべく早く買物を終える」、「買物に行く回数を減らす」が約3割、「店内では商品やサンプルなどに手を触れないようにする」が約2割である2)。ショッパーは店内において、「できるだけ短い時間で」、「買うと決めた商品以外にはなるべく触れないで」買物をしようとしていることがうかがえる。「買物に行く回数を減らす」場合、買物1回当たりの購入点数が多くなるため、店内滞在時間は長くなりやすいが、意識して買物時間を短くすることで、感染を予防しているショッパーも少なくないと思われる。
 一方、「ネット通販での購入を増やす」は1割超、「ネットスーパーを積極的に使う」は1割未満であった。スーパーマーケットの関係者からは、コロナ下でネットスーパーの利用が増えたという話を聞くが、元々のネットスーパー利用者が少なかったがゆえに利用者数や売上の増加率が大きいという側面がある。ネットスーパーの浸透度合いは、いまだ低水準に留まっているのが現状であろう。

図表 1
新型コロナウイルスの感染予防のために日常の買物で行っていること(複数回答、抜粋)


注:有効回答者数 n=2,546。
出所:流通経済研究所「ショッパー・マインド定点調査」(2020年7月、インターネット調査)より作成。

 なお、調査を実施した2020年7月27~29日は、国内の1日当たり新型コロナウイルス感染者数が、低位安定していた6月から一転、急増して8月上旬のピークに向かう時期に相当し、回答者の感染予防に対する意識が高い状態にあったと考えられる。そのため、図表 1の回答結果は10月現在の日常感覚とはやや異なる可能性があるが、これから冬にかけて感染が拡大した場合に備え、対策を検討しておくことが重要である。

食品や日用品の買物で多くを占める「非計画購買」が減少する可能性がある

 店内で、できるだけ短い時間で買物を終えようとするショッパーが増えると、結果として非計画購買の減少につながると考えられる。流通経済研究所の調査によると、スーパーマーケットでは、ショッパーが店内で初めて購買意思決定する商品の割合(非計画購買率)が約8割と多くを占めているが、買物にかける時間が短くなると、立ち寄る売場の数が減り、視認する商品数が減るため、非計画購買が発生しにくくなる。

非計画購買率が高いカテゴリーの売り方を考える

 このことは、スーパーマーケットにおいては図表 2の左上と左下に分類されるような、非計画購買率が高い(計画購買率が低い)赤枠内のカテゴリーが、購買されにくくなることを意味する。

図表 2
スーパーマーケットにおける購買の計画性と購買率によるカテゴリー分類


出所:流通経済研究所編(2016)『インストア・マーチャンダイジング(第2版)』日本経済新聞出版社、44ページの図より作成。

 非計画購買率の高いカテゴリーの中でも、購買率が高い(来店客数当たりの購買人数が多い)、図表 2の左上に位置する「もう一品型」のカテゴリーは、店頭販促が成果につながりやすいため、従来から大量陳列などにより、非計画購買を促すことが多かった。しかし、現在、店舗では、従業員の商品接触機会を極力減らしたいと考えるため、従来のように店頭販促を実施することが難しい場合もある。
 このような状況下で、非計画購買率が高いカテゴリーの購買を促すには、どのような対応が考えられるだろうか。対応を検討する際に有効なのは、ISMの基本的な考え方や、ショッパー・マーケティングの事例を参照することである。コロナ下において想定される特徴的なショッパーの行動と、対応の例を図表 3に示す。

図表 3
コロナ下において想定されるショッパーの行動と対応例


出所:筆者作成。

まとめ

 本稿では、コロナ下におけるショッパーの意識に注目し、食品や日用品を販売する小売店舗の売上の多くを占める非計画購買が減少する可能性があることを指摘した。また、非計画購買率が高いカテゴリーの購買を促すための、ISM、ショッパー・マーケティングの対応例を示した3)。対応例として挙げたように、これからは、店舗小売業においても、SNSやデジタル・サイネージなどの手段によるデジタル・マーケティングを通じて、店内外でショッパーに情報を提供することが重要になるだろう。しかし、手段がデジタルであっても、アナログであっても、ショッパーの興味を惹き付け、購買を促すという目的に変わりはない。ショッパーの意識や行動の理解に基づくISM、ショッパー・マーケティングの考え方は、今後も引き続き重要であり、状況に応じてこれらの考え方を応用し、ショッパーの変化に対応することが一層求められるだろう。

<注>
1)「ショッパー・マインド定点調査」は、全国の消費者を対象に、3か月に1度実施している定点調査(インターネット調査)で、小売業態や店舗の利用実態、買物に対する考え方、今後の意向などを聴取している。過去からの変化をとらえることに加え、トピック設問項目(2020年4月、7月の調査であれば新型コロナウイルス感染症拡大に関連する設問)も設けている。
2)「店内ではなるべく早く買物を終える」は、回答者全体では約3割なのに対し、70代以上では約4割、「店内では商品やサンプルなどに手を触れないようにする」は、回答者全体では約2割なのに対し、70代以上では約3割であった。70代以上では新型コロナウイルス感染症による致死率が高く(国立感染症研究所の2020年8月の発表によると、2020年6月以降の致死率は、50代、60代が3.1%なのに対し、70代以上では25.9%)、感染予防の意識が高いことを反映していると思われる。
3)本稿では主に非計画購買率が高いカテゴリーの購買を促すための施策を例示したが、コロナ下で想定されるショッパーの行動は多様であり、様々な対応が必要になる。例えば、コロナ下で「利用する店舗数を減らす」というショッパーについては、自店にとっての機会だと考え、「ID-POSデータ分析により非購買カテゴリーを把握し、クーポンを発行して、これまで他店で購入していたカテゴリーのトライアル(計画購買)を促す」ことも可能である。また、「店舗を利用する回数を減らす」というショッパーに対応するには、「ネットでの購入に誘導する、ネットで注文した商品を駐車場で受け取れるようにする」ことで、顧客離れを防ぐことができる。

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