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コラム

2022.6.2 更新

「都市型」ドラッグストアの再活性化策を考える
-「COVID-19」流行3年目の繁華街から-

重冨 貴子
公益財団法人流通経済研究所 主任研究員/
ドラッグストア研究会 主宰

 ドラッグストアの取材と定点観測を兼ねて、新宿~新宿三丁目付近の繁華街を訪問した。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の流行以降、自らが拡散者とならぬよう、都外はもちろん、都内への外出も極力控えてきたため、新宿の小売店舗訪問は1年ぶりである。

激減したドラッグストアの来店客

 街を歩いてまず気付いたことは、ドラッグストア都心部店舗への来店客がほとんどいない、という点である。3度目の「緊急事態宣言」期間中で人出が極端に少なかった1年前に比べると、コロナ前の賑わいにはほど遠いとは言え、買い物客や散策者が徐々に街へ戻り、ごく少数ながら外国人旅行者らしき姿も見かけた。それでも、コロナ前は入店をためらうほど混雑していたドラッグストアの好立地店舗に、来店客がほとんど戻ってきていない。都心部のドラッグストア店舗は、人口集積地の好立地を確保し、総合的な品揃えと手頃な価格、セルフ方式の気軽さと、必要であれば相談も可能、という利便性で高い集客力を誇ってきた。しかし、COVID-19の流行が長期化し環境が大きく変化するなかで、「来店目的」が失われてしまった模様である。チェーン限定商品、「ウィズ・コロナ」の生活に対応したメイクアップ化粧品の提案など随所に新しい工夫も見られたが、そもそも入店してもらえなければそれらの効果も発揮されない。新たな市場状況を踏まえて、「来店目的」の再創出が必要だと思われた。

失われつつある総合的な品揃えの優位性

 次に感じたことは、他の小売業態からのピンポイント攻勢で、今後ドラッグストアが“総合化のワナ”に陥るリスクもありそうだ、という点である。ハイエンド商品の販売に長けた百貨店の1階化粧品カウンターには利用客が戻りつつあり、1年前の“ガラ空き状態”から変化を感じた。ファッションビルの地下には、10日前にオーガニック・スーパーが出店したばかりだったが、不利な立地条件にも関わらず、レジ行列ができるほど客を集めていた。美容雑貨・家事用品売場はごく小さいが、厳選した高品質ブランド商品をフルラインで品揃えしており、“本気度”が窺えた。ドラッグストアは、食品・非食品の品揃えと粗利ミックスによる価格競争力により、主要リアル小売業態のなかでは成長性が高い。他業態からのラインロビングで成長してきた歴史を持ち、現在、生鮮食品にまで取り扱いカテゴリーが拡大しつつある。しかし、かつて日本の小売市場を刷新・席巻した総合スーパー(GMS)は、衣料品専門店や家電量販店、家具インテリア店、バラエティ雑貨店といった専門店業態から「一点突破」の攻勢を受け、強みとしていた総合的な品揃えの優位性が徐々に失われ、模索が続いている。今後は、ドラッグストア業態でも“総合化のワナ”を回避する方策の検討が求められるかもしれない。

「都市型」店舗再生に向けて

 第3に印象的だった点は、COVID-19の流行長期化により、個別店舗にとどまらず、街全体が大きく様相を変えつつあることである。駅に程近い大通り沿いのビルは、スーツ店と家具インテリア店が撤退・移転した後、空きテナントのままとなっていた。複数のインバウンド向けドラッグストアが出店しCOVID-19流行後に休業・閉店となっていた場所は、PCR検査センターや銀行ATMコーナーに姿を変えていた。多くの飲食店、カラオケ店等が入居していた歌舞伎町のビル街では、テナント募集の看板が散見された。開店時に話題を集めた「ビックロ」は、ユニクロが他所へ移転し、6月中旬よりビックカメラのみのフロア構成に戻る、とのことであった。

 ドラッグストア業態はCOVID-19の流行下でも成長を続けているが、現在、「都市型」店舗の再活性化と売上回復が課題となっている。大都市・繁華街では、個別チェーンや個別店舗の取り組みにとどまらず、高い集客力を備えていた街の機能・環境再生も含めて検討する必要があると思われた。

▼「ドラッグストア研究会」のご案内

-現地視察や取材に基づいた報告、独自の業界分析・顧客調査、DGS企業による講演-
(公財)流通経済研究所では、メーカー・卸売業を対象とした年会員制「ドラッグストア研究会」を開催しております(2022年度は、6月~翌年3月に全5回開催)。お気軽に担当者までお問い合わせください。
https://www.dei.or.jp/project/dgs/index.php

 

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