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コラム

2021.11.30 更新

ヤオコー新店のデザインに見る示唆

池田 満寿次
公益財団法人流通経済研究所 主任研究員

 仕事柄、スーパー等が新しくオープンする店舗に、取材者として足を運ぶことが多い。
新店では新しい取り組みにチャレンジすることも多く、その企業の課題意識や強化の方向性を読み取ることができる。有効な取り組みは他社による追随が続き、時を待たずして一気に広がることも多いため、新店は重要なベンチマークになる。

 そんな中、今後の店舗像を展望する上で、示唆に富むのが最近のヤオコーの新店だ。
ヤオコーの場合、定評のあるデリカや生鮮コーナーに注目が集まりやすいのだが、店内で視線を少し上に向けると、そこにもヤオコーらしさを垣間見ることができる。
具体的には、売場の壁面や柱回り、天井から吊るすタペストリーなどのビジュアルだ。
鮮やかで目を引く絵柄は、各売場の案内サインの役割を果たすと同時に、思わず絵画を見ているような感覚を誘う。おしゃれ、センスが良い、美味しそう―― 
そんなイメージを誘うデザインは、来店客の心をほぐし「買い物のスイッチ」を押してくれるような力強さも感じる。


2021年10月14日オープン ヤオコー和光丸山台店

2021年11月25日オープン ヤオコー川越霞ケ関店
※鮮魚コーナーのガラス張りの作業場にある壁面にもイラストを描いた。

 鮮やかなビジュアルもさることながら、注目したいのはその担い手である。あまり知られていないが、スーパーとしては珍しくヤオコーには複数のデザイナーが社員として在籍している。こうした体制がスタートしたのは2010年代半ばごろ。
他社で空間デザインの業務を手がけていた宮本昌明氏(写真)がヤオコーに入社したのを機に、社内でデザイナーを組織化し、店内の壁面や装飾物のデザインを手がけるようになった。ちなみに人気のPBシリーズ「Yes!YAOKO」商品パッケージにおいて、優れたパッケージデザインを表彰する「日本パッケージデザイン大賞2021」で入選するなど、その実力は伺い知れる。


店内で使用するビジュアルのデザインを手がけるヤオコー・ブランド戦略室長の宮本昌明氏

 スーパーで扱う食品は、味のおいしさに加え、「見栄え」も重要であることに、多くの説明は要らないだろう。店内での演出・装飾では、その道の専門であるデザイナーの力が頼りになるのだが、自社でデザイナーを抱えるとなると、費用や環境整備などの面でハードルが多く、二の足を踏む企業が大半だ。それだけに、デザインの専門人材を社内に有するヤオコーからは、「魅せること」への強いこだわりが読み取れる。

 最近のスーパーの新店では、省人化を目的とした什器や設備を目にすることが増えており、販管費の低減に努めようとする意識が強まっている。こうした背景の一つには、食品の低価格販売で勢力を増すドラッグストアの存在がある。価格で対抗するためには、たしかにコスト削減は欠かせないのだが、ややもするとスーパーが守勢に回っているようにも映る。ヤオコーが店舗展開するエリアでも年々、ドラッグストアの出店が増えている。
ドラッグストアだけを意識している訳ではないが、社内デザイナーの熱量が伝わる新店での鮮やかなデザインには、食品を専門に扱う企業体としての矜持・プライドが感じ取れる。

 社内デザイナーを率いる宮本氏によると、店内に施す各種デザインではスーパーでの前例にあまり囚われることなく、「他店との差別化を強く意識している」という。店舗近隣に幼稚園がある店舗では、カフェコーナーの壁面に子供が親しみやすい絵柄を描くなど、店舗の立地環境に応じて個性を打ち出す。

 デザイナーを組織化するのは一朝一夕ではいかないかも知れないが、ヤオコーに追随し、組織として「魅せること」への意識を高めていくことはできるはずだ。ちなみに宮本氏が所属するのは、コーポレートブランド戦略部という組織内にある「ブランド戦略室」。その室長としてデザイナーを率いる。その位置づけ方からも、ヤオコーらしさが伺える。

 

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