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コラム

2019.12.19 更新

SDGs・ESG時代の小売業経営
―社会貢献そのものを事業として捉え、戦略的に取り組む時代へ

石川 友博
公益財団法人流通経済研究所 主任研究員

 小売業が、社会貢献そのものを事業として捉えて戦略的に取り組むべき時代を迎えている。社会課題の解決に取り組み、事業成果につなげたスーパーの事例を2つ紹介したい。

事例1:フードバンクと連携したスーパー

 フードバンクと連携して、社会貢献と事業成果向上を実現したスーパーがある。フードバンクは、余剰食品を抱えた事業者と、食品を必要とする福祉施設等を橋渡しする役割を果たす活動であるが、寄付とボランティアに支えられることが多く、継続的に活動することが容易でない。
 ここで紹介するスーパーは、独自のフードバンク連携に取り組んでいる。フードバンクの運営課題である余剰食品の引き受け、保管、福祉施設等への配送といった負担を無くすための工夫をすることで、持続可能なフードバンク活動の支援をしているのだ。具体的には、フードバンクの役割を、店舗で発生した余剰食品の把握、受け取り施設の割り振りと連絡のみとした。余剰食品は、連絡を受けた福祉施設等が直接店舗で引き取ることとし、配送の負担がなくなった。その結果、より多くの人々に食品が行き渡るようになった。このスーパーは、近隣の競合スーパーにも余剰食品の提供を呼びかけて活動を広げている。
 一方、このような社会貢献活動は、スーパーにとっても様々なメリットをもたらしている。これまで産業廃棄物となっていた余剰食品は消費され、ごみの減量につながり、廃棄処理費用の大幅削減につながった。また、これまで余剰食品の廃棄に罪悪感を持っていた従業員のマインドが改善されてモチベーションアップが実現し、生産性向上につながっているという。
 なお、このスーパーが自治体や消費者団体、学校関係者等と連携し、取組に注力しているエリアの既存店売上高は、他のエリアより好調に推移している。スーパーの担当者は「地域・社会に良いことをしているということが、口コミで地域に広がった」と語る。

事例2:改装店に保育施設を併設したスーパー

 店舗をリニューアルオープンする際、必ず事業所内保育施設を設けているスーパーがある。スーパーは人手不足に悩む一方、子育て世帯が働きやすい環境整備が進んでいるとは言い難い。この課題を解決するため、店舗のリニューアルに合わせて事業所内保育施設を設けることが会社方針となった。社会課題である保育施設不足に対応することで、このスーパーの採用優位性は高まり、人手不足感は弱まりつつある。幼児子育て世代の女性採用が増えたことで生産性向上につながり、人員が確保できることで売上に好影響が及んでいるという。さらに、福利厚生の充実による従業員満足度の向上にもつながっている。
 事業所内保育施設はリニューアルオープンから一定期間が経過すると、パート・アルバイトの集中勤務が減り、余力が生まれる。将来的には、地域や来店客にも事業所内保育施設を開放し、地域貢献や来店促進、顧客満足向上をめざす。
 このスーパーでは、トップが数年前から「社会貢献の視点から新規事業を考えよ」と、現場に投げかけており、SDGsを思考ツールとして活用している。

社会貢献そのものを事業として捉え、戦略的に取り組むための意義とポイント

 2つの事例から、小売業が社会貢献そのものを事業として捉え、戦略的に取り組み成功するポイントを読み取ることができる。
 (1)単に自社の事業をSDGsやESGに紐づけて表現し直すのではない
 (2)事業活動の担当者が自社でできる社会貢献を考え抜きイノベーションにつなげる
 (3)地域のステイクホルダーと連携する
 (4)トップがコミットメントし積極的に関与する

 特にトップの積極的な関与は組織の推進力につながり、社会課題の解決と事業活動の両方の成果につながると考えられる。今後の小売業経営に欠かせぬ視点といえるのではないだろうか。

関連情報

 流通経済研究所では2020年2月5日(水)から3日間、戦略ビジョンセミナー「流通大会2020」を開催する。2日目の2月6日(木)は「SDGs・ESGが変える流通」と題したセッションを設け、この問題を掘り下げる。当日は、今後必要不可欠となるSDGsやESGの視点を経営に採り入れ、社会の持続可能性と自社の持続的成長を両立していくために、イオン社やシジシージャパン社、シブサワ・アンド・カンパニー社、セブン&アイ・ホールディングス社といった国内有数の企業・有識者が、注力する取り組みや今後の経営のあり方について報告・提言する。
 2020年以降の流通・マーケティング、SDGs・ESGという潮流の中で、今後、流通業が新しい価値を生み出し続けるためにはどうすべきか、それに対してサプライヤーはどう対応すべきか、関心のある方にご来場いただければ幸いである。

※「流通大会2020」2日目「SDGs・ESGが変える流通」のプログラムはこちら

https://www.dei.or.jp/ryutsu_fes/schedule_day02

 

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