加藤 弘貴
公益財団法人流通経済研究所 専務理事
平澤 崇裕
国土交通省 総合政策局 物流政策課 課長
「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)」(令和3年6月15日閣議決定)では、「①物流DXや物流標準化の推進によるサプライチェーン全体の徹底した最適化(簡素で滑らかな物流)」、「②労働力不足対策と物流構造改革の推進(担い手にやさしい物流)」、「③強靱で持続可能な物流ネットワークの構築(強くてしなやかな物流)」の3つを、大きな柱として打ち出している。本稿では、我が国を取り巻く物流の現状を解説するとともに、大綱策定から1年余りが経過した現在、大綱に位置付けられた施策の取組状況について、担い手にやさしい物流を中心に、3つの大きな柱に沿って紹介する。
キーワード: 物流DX、標準化、労働環境の整備、労働力不足対策、持続可能性橋本 雅隆
明治大学専門職大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授
物価高の中で物流では2024年問題が迫っている。流通業でも商品が「届かない」危機感が生まれつつある。ドライバー不足問題に対処するため、経済産業省と国土交通省によって関連する対策の検討会議が複数立ち上げられた。物流資材の標準化や商流・物流情報基盤の構築をベースに流通の垂直統合と水平連携による物流拠点と輸送ネットワークのシェアリングを目指したフィジカルインターネットの実現に向けたロードマップと消費財分野のアクションプランが作成された。本稿では、こうしたビジョンの実現に向けた流通業の取り組みと、その前提となる製配販の連携的取り組みについて論じる。
キーワード: フィジカルインターネット、DX、オペレーション革新、物流需要密度、地域資源田代 英男
公益財団法人流通経済研究所 主任研究員
我が国では、2024年度からのトラックドライバーへの時間外労働の上限規制等の適用や、2050年までにカーボンニュートラルへの対応が求められており、近い将来には国民生活や経済活動に不可欠な物資がこれまでのように運べなくなる事態が起きかねない危機的な状況にある。こうした背景のもと、物流が直面している諸課題を解決し、更なる物流効率化を進めていく必要性が一層高まっている。
そこで、我が国の物流効率化のこれまでの取り組み状況を明らかにしたうえで、加工食品・日用雑貨業界のフィジカルインターネット実現に向けた課題を整理するとともに、今後の方向性として「物流効率化の取り組みの可視化」、「物流効率化を推進する組織の確立」の2点を挙げた。
吉間 めぐみ
公益財団法人流通経済研究所 主任研究員
迫りくる物流2024年問題に対応していくために、物流効率化は必須となっている。農産物の物流も例外ではなく、特に地方の産地市場にとって物流問題は大きな課題の1つである。その農産物の中でも、花きの物流は難度が高いといわれる。本稿では、花きの国内物流について、特に地方から大田市場に向けた物流ではなく、地方から地方市場への共同配送実証を踏まえ、花き特有の物流の特徴と課題を明らかにした。その上で、今後必要となることは、[1]荷主の意識強化、[2]主要市場の活用及び全国の拠点化、[3]共同配送の3つになると考える。
キーワード: 花きの国内物流、物流2024年問題、物流効率化、地方市場、中継輸送池田 真志
拓殖大学 商学部 教授
鶴羽 順氏
株式会社ツルハホールディングス 代表取締役社長執行役員
聞き手◎中村 博
公益財団法人流通経済研究所 理事/中央大学大学院 戦略経営研究科 教授
守口 剛
公益財団法人流通経済研究所 評議員/早稲田大学商学学術院 教授
川上 智子
早稲田大学大学院 経営管理研究科(ビジネススクール) 教授
マルチステークホルダー資本主義の言葉に代表されるように、環境や社会に好影響を与える社会貢献志向のCSRから、高次の目的としてのパーパスを掲げ、意識の高い経営を行うコンシャス・キャピタリズムへの転換が求められている。本稿では、まずCSR、ESG、CSV、SDGs、サーキュラー・エコノミーといった近接するコンセプトを利益/寄付志向、社会/企業志向という2軸で整理する。さらにコンシャス・キャピタリズムの中心的概念であるパーパス(存在意義)を明らかにし、より良い世界のためのマーケティング(BMBW)としてのパーパス・ドリブン・マーケティングの概念を示し、企業が自社のパーパスを起点にマーケティングを行うことの 重要性を明らかにする。
キーワード: パーパス、CSR、社会的価値、経済的価値、コンシャス・キャピタリズム伴 大二郎
合同会社db-lab 代表CEO/株式会社ヤプリ エグゼクティブスペシャリスト/株式会社顧客時間 プロジェクトマネージャー
本稿では、消費者の変化に対応して成功を収めている企業としてAllbirds、CVS Health、Nike、e.l.f.の事例を挙げ、パーパスドリブンの本質が経営の意志決定軸であり、マーケティング戦略であることを示した。従来型企業が経営転換をするためには、他社とのパートナーシップを組みながら解決していく必要がある。また、日本企業については、デジタルトランスフォーメーションとサステナビリティトランスフォーメーションを連動して進めていく必要がある。
キーワード: パーパスドリブンコンシュマー、D2C、サステナビリティトランスフォーメーション、カスタマーセントリック、CSV西尾 チヅル
筑波大学 ビジネスサイエンス系 教授
本稿は、筆者が2019年と2021年に実施した消費者調査をベースに消費者のエシカル志向や行動の特徴を紹介すると共に、コロナ禍の影響を考察した。加えて、西尾・石田のモデル(2014)を用いて、消費者のエシカル行動の促進要因や阻害要因についても明らかにした。消費者は、福祉・介護問題と同等、気候変動やエネルギー資源問題も深刻なエシカル問題と捉えており、自らも課題解決に積極的に取り組むべきと思っているものの、どうすればよいかわからない状態であること、また、個人のエシカル行動は家族や友人等の社会規範の影響を最も強く受けることが示された。これらの結果を踏まえて、企業のマーケティング施策を示した。
キーワード: SDGs、エシカル志向、エシカル行動、新型コロナ感染症、懐疑心白鳥 和生
日本経済新聞社 編集総合編集センター 調査グループ 調査担当部長
生活者の意識変化や、地球環境問題をはじめとする社会課題が山積する中、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどの小売業界各社は「サステナビリティ(持続可能性)」を重視した経営が求められている。エシカル(倫理的)消費に対応したプライベートブランド(PB)開発や環境に配慮した業態開発などが活発化している。そこでは「なぜ我が社は社会で存在しているのか」あるいは「どうしたら社会に受け入れられるのか」を問う姿勢が欠かせず、生活者からの共感が必要になる。
キーワード: エシカル消費、サステナビリティ、SDGs、ESG経営、パーパス宮﨑 達郎
公益財団法人生協総合研究所 研究員
本稿では、地域生協や日本生活協同組合連合会によるエシカル消費に関連した取り組み等に関して簡潔に整理しつつ、2021年度全国生協組合員意識調査の結果から、組合員のエシカル消費の状況が、それが所属する地域生協のイメージや好感度にどの程度つながっているのかを検討した。
PB商品であるコープ商品に占める、エシカル消費対応商品の割合は堅調に増加している。また、組合員は一般消費者と比較してエシカル消費に取り組む割合が高く、所属する地域生協についてSDGsやエシカル消費に関連したイメージがあると感じる組合員ほど、所属する地域生協に対する好感度が高まる傾向が示された。
寺崎 竜雄
公益財団法人日本交通公社 常務理事
折笠 俊輔
公益財団法人流通経済研究所 主席研究員
折笠 俊輔
公益財団法人流通経済研究所 主席研究員
本稿では、マーケット拡大が続く青果物のECについて、ECサイトの運営形態から、モール型EC、産直型EC、仕入れ型EC、自社ECの4つに分類し、それぞれの特徴について論じたのち、その比較を行った。また、生産者視点で見た場合のECの意義を確認し、生産者の規模別、戦略思考別に考えることができるEC分類の利用の方向性について整理した。生産者の規模や、ECチャネルによる販売が自社売上高に占める比率をどれくらいにするのか、生産している品目構成はどうなっているのか、といった状況を踏まえ、生産者は戦略的にECを活用していくことが重要である。
キーワード: EC、インターネット販売、産地直売、販路拡大、アフターコロナ石橋 敬介
公益財団法人流通経済研究所 主任研究員
本研究では、農産物ECでの買い物を想定したアンケート調査により、品目の分類を行った。
アンケートでは、「関与」「知覚差異」「支出の痛み」「品質バロメータ」という4点について調査する質問項目を設けて、品目ごとの特性を明らかにし、それを基にした分類を行った。具体的な研究成果として、例えばメロンや牛肉においては、消費者が他品目より深く情報処理を行うため詳細な情報提供が求められることや、ぶどう等では価格を手掛かりにした品質判断がされやすいことなどを明らかにした。この研究の成果は、生産者やEC事業者が取り扱う品目に合わせた販売を行う際に利用できるものである。
小野 邦彦
株式会社坂ノ途中 代表取締役
アブストラクト:
坂ノ途中は、環境への負担の小さい農業を広げることを目標に、インターネット通販(以下EC)、法人顧客向けの農産物卸、東南アジアを中心とした途上国におけるコーヒー生産の品質向上及び輸入販売を行っている。
なかでもECは売上全体の6割程度を占め、安定的な成長を続けている。ECの主力は、バリエーション豊かな季節の野菜を詰め合わせた「野菜セット」。古典的とも言える野菜の定期宅配をメインに据えたECが、なぜ成長を続けているのか、改めて分析してみた。
菰田 央
東御こもだ果樹園 代表
長野県東御市でぶどうの生産を行っている東御こもだ果樹園は2015年に新規就農者として営農開始し、今季2022年で8期目になる。営農初期は農協と個人顧客(電話、FAX、メールでの注文)のみの取引であったが、直近(2021年)は、農協出荷はゼロとなりECにシフトした。
農協の下請けを卒業し、ECを通じて独自にマーケティング展開するためには、東御こもだ果樹園をブランディングし、販路を築き上げる必要がある。その過程の様々な場面における、判断→決断→施策→結果とその他データを交え、『農産物ECを通じたマーケティングやブランディング』について考察する。
中島 彰一
公益財団法人流通経済研究所 研究員
Mansfeld(1992)の旅行目的地選択の概念モデルに基づき、食品の購買が旅行目的地選択における情報収集手段となり得ること及び食品の購買経験があることが旅行目的地設定における内発的動機となり得ることについて、地域特産品の購買に関する消費者アンケート調査を通じて検証を行った。なお、前者については、結果的に産地についての情報の蓄積につながっている可能性があることから、旅行目的地選択における情報収集手段となり得るといえ、肯定することができる。後者については、何がより強い動機となり得るかまでは判断できないが、少なくとも訪問経験の有無により、はっきりと結果に差異が生じていることから肯定することができる。
キーワード: 地域特産品、EC、実店舗、観光目的地選択、内発的動機北澤 裕明
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 食品研究部門 上級研究員
渡辺 達朗
公益財団法人流通経済研究所 理事/専修大学 商学部 教授
山﨑 泰弘
公益財団法人流通経済研究所 常務理事
山﨑 泰弘
公益財団法人流通経済研究所 常務理事
ドラッグストア(DGS)1店舗あたりの人口を用いた店舗密度の観点から、成長機会について検討した。全国に店舗網が広がるDGSは顧客接点、販売拠点としての重要度が高まっており、上位企業の競争力は他業態を凌ぐものになっていくと考えられる。またDGSは、すでに日用品販売においては確固たる地位を築いており、今後の成長の鍵は冷蔵・冷凍食品を含む食品販売にあると考えられる。
ただし、直近の出店ペースでは、近い将来に店舗数が飽和することが懸念され、さらなる成長を実現するためには、店舗の損益分岐点を下げることが必要になる。その方法として、顧客接点を活用したヘルスケアに関連したサービスや広告など物販以外の収益モデルを作ることや、製造小売として収益性の高い価値あるPB商品を開発することなどに可能性があると考察した。
重冨 貴子
公益財団法人流通経済研究所 主任研究員/ドラッグストア研究会 主宰
本稿では、ドラッグストア業態の直近の展開状況を概観し、商品構成などの質的な変化や、経営戦略の方向性、「新型コロナウィルス感染症」(COVID-19)流行の影響などを踏まえて、業態の優位性と課題点を検討した。ドラッグストア業態の食品・非食品の粗利ミックスによる収益モデルは優位性が高く、COVID-19流行下でも購買動向は安定的に推移し、主要リアル小売業態のなかで高い成長性を保っている。経営戦略の方向性(3タイプ)は時系列変化が小さく、ドラッグストアの取引先は、今後も各々の方向性に沿った営業提案を行うことが重要だと考えられる。今後は狭小商圏化の進行に伴い、各社がより一層効率化や収益性強化に迫られると予想される。食品強化は来店頻度や買上点数の増加効果をもたらす一方、同質化のリスクもあり、食品購入目的での来店客を非食品購入につなげる方策を検討する必要があるだろう。国内市場の深耕による「プライマリー・ストア化」を図るとともに、中長期的には海外市場も含めた成長戦略が求められると考えられる。
キーワード: ドラッグストア、品揃え、食品、COVID-19、経営戦略本藤 貴康
東京経済大学 経営学部 教授
購入金額という行動的ロイヤルティに焦点をあてて、全国の地域密着型ドラッグストア企業のID-POS分析に基づいた、新規顧客の購買行動についての研究成果である。新規顧客のなかで翌年離反客と翌年継続客では買上カテゴリー数に顕著な差が生じている。新規顧客の翌年実績については年間購入金額以上に買上カテゴリー数の影響力が大きい。買上カテゴリー数は店内動線長に比例し、それぞれのカテゴリーの個々の需要発生時に来店目的を生じさせる。ロイヤルティ形成に貢献するカテゴリーとしては、習慣的消費をともなうカテゴリーのほかに、地域の業種店減少という背景要因から、業態店でも限定的な品揃えにとどまっているようなカテゴリーによる来店誘導の重要性が高まっている。
キーワード: ストア・ロイヤルティ、顧客購買行動、ドラッグストア、買上カテゴリー数、新規顧客中川 宏道
名城大学 経営学部 准教授
本研究では、ドラッグストアにおけるポイントカードの知覚価値を決定する要因として、ポイントカードの設計要因(ポイントの提供方法とポイント特典の内容の要因)と消費者要因について検討をおこなった。その結果、前年や前月の購買実績に応じて顧客をランク付けする顧客階層型、ある決められたポイント数までポイントを貯める必要がある非連続型、値引きではなく景品などを提供する間接的特典はポイントカードの知覚価値を低くすること、提携型(Tポイント)はポイントカードの知覚価値を高めることが明らかになった。消費者要因としては、ポイント使用経験のない顧客はポイントカードの知覚価値を低くすること、入店前にポイント使用決定をする顧客ほどポイントカードの知覚価値が高いことなどが明らかになった。
キーワード: ポイントカード、ロイヤルティ・プログラム、ドラッグストア、顧客階層、顧客満足池野 隆光氏
ウエルシアホールディングス株式会社代表取締役会長/
日本チェーンドラッグストア協会会長
聞き手◎中村 博
公益財団法人流通経済研究所 理事/中央大学大学院戦略経営研究科 教授
石井 裕明
青山学院大学 経営学部 准教授
神谷 渉
公益財団法人流通経済研究所 客員研究員/玉川大学 経営学部 准教授
若林 哲史
株式会社エレガント・ソサエティ 代表取締役社長
100年に一度のパンデミックとなったコロナ禍は、人々の生活に大きな影響を与えた。リモート勤務やオンライン学習が取り入れられた結果、巣ごもり現象が起こり、新しいビジネス機会も生まれている。小売業界では、テクノロジー導入が急速に進み、顧客サービスや生産性改善に、AIやアルゴリズムが使われ始めている。一方、外部との接触が減っているにも拘らず、人との結び付きが望まれ、地域貢献の姿勢がより尊ばれる傾向が目立ってきた。企業に対しても社会的な責任が求められ、各社、目的を明確にした経営体制を整えつつある。
キーワード: オムニチャネル、リテール・プラットフォーム、ミレニアル世代、エンバイロメンタル、ソーシャル森脇 丈子
流通科学大学 人間社会学部 教授
フランスの食品スーパーでは、注文品を自分の車で店舗まで受け取りに行くclick&collect方式の買い物が成長している。現地では、<drive>と呼ばれるこの購買方式は、消費者にとっての買い物の利便性を広げ、企業にとっても収益の柱に育てるべく投資がなされてきた。さらに、コロナ禍の影響により、今までは<drive>を利用していなかった消費層にも広がりがみられる。郊外にハイパーマーケットを展開するE.Leclerc(ルクレール)が<drive>市場の売上高のおよそ半分を握っているが、都市部では中小規模店舗を数多く有する他の大手スーパーによる徒歩でのclick&collect(drives piéton)も急速に広がりをみせている。
キーワード: click&collect、<drive>、フランス、ハイパーマーケット、宅配李 雪
公益財団法人流通経済研究所 特任研究員
中国のEC市場では、ライフスタイルや価値観の多様化、顧客獲得コストの急増などを背景に、トラフィックとコンバージョンに依存した集中型ECの成長が減速している。一方、SNS、ライブや動画などのコンテンツを活用し、顧客を中心に有効なコミュニケーションを継続的に取りながら、リピート率やロイヤルティを向上させる脱集中型ECが急速に成長している。これに着目したEC大手のアリババやSNS大手のテンセントは、それぞれDtoC、プライベート・トラフィック戦略を打ち出し、メーカーなどの出店企業もしくはパートナーとともに、顧客関係を強化しながら、新たなEC運営形態に挑戦している。
キーワード: EC、脱集中型、顧客接点、DtoC、プライベート・トラフィック閻 湜
専修大学大学院 商学研究科 博士後期課程
渡辺 達朗
公益財団法人流通経済研究所 理事/専修大学 商学部 教授
現在、中国の少なくとも都市部の消費者にとって、EC(電子商取引)が生鮮食品の主要な購買チャネルの1つとなっている。生鮮食品ECが注目されはじめたのは2005年頃で、2011年~12年には大手EC企業が生鮮食品流通に参入してきたが、当初市場の成長は緩やかなものであった。それが、2019年頃から成長軌道に乗り、コロナ禍を経た現在、さらに市場の拡大が続いている。本研究では、生鮮食品EC市場と業界の特徴について整理したうえで、市場の担い手、生鮮ECの展開に必要な能力、能力育成・獲得をめぐる企業間連携に注目して検討する。
キーワード: 中国EC企業、生鮮食品EC、ケイパビリティ、アリババ、プラットフォーマー神谷 渉
公益財団法人流通経済研究所 客員研究員/玉川大学 経営学部 准教授
小売業の顧客接点戦略において、マーチャンダイジングの分野に着目し、顧客接点の多様化が進む中でプライベートブランド(PB)が果たす役割について検討した。まず、欧米の大手小売業において近年PBがどのように変化してきているのかを確認するとともに、ECにおけるPBの導入やD2Cブランドについて概観した。次に、これらの状況をGielens et al.(2021)が示したスマートPL(Private Label)の考え方に基づいて整理を行った。その結果、小売業の顧客接点が多様化する中でPBが果たす役割は高まっており、PBに求められることとして、イメージ志向型への対応の必要性が高まっていること、製品開発における企画者の存在が重要になっていること、価格訴求よりもブランドとしての独自性が重要になっていることが示唆された。
キーワード: プライベートブランド(PB)、EC、D2C、ウォルマート、テスコ藤田 元宏氏
ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス株式会社 代表取締役社長 兼
イオン株式会社 執行役副会長
聞き手◎中村 博
公益財団法人流通経済研究所 理事/中央大学大学院戦略経営研究科 教授
菅野 佐織
駒澤大学 経営学部 教授
青山 繁弘
公益財団法人流通経済研究所 理事長
上原 征彦
公益財団法人流通経済研究所 理事・名誉会長/株式会社コムテック22 代表取締役
祝 辰也
公益財団法人流通経済研究所 上席研究員/コンサルティング・リサーチ ビジネススクール 統括
根本 重之
公益財団法人流通経済研究所 理事
後藤 亜希子
公益財団法人流通経済研究所 主任研究員
経済産業省「電子商取引に関する市場調査」は2020年のEC化率が8.1%になったと推計している。だがEC化率は品目によって大きな差があり、食品はまだ3%台にとどまっており、開拓レベルの低い最大市場となっている。
総務省「家計消費状況調査」によると「EC利用世帯当たりEC支出額」はここのところ増加幅が縮小する一方、「EC利用世帯の割合」は上昇し続け、新型コロナウイルス感染症下で50%を超えるに至った。したがってEC支出の増加は、前者より後者の要因によるところが大きい。そして現在5割程度のEC利用世帯の割合はまだ高まるであろうから、それだけでもECはさらに成長すると考えられる。他方、「EC利用世帯の消費支出に占めるEC支出の割合」はここ数年11%程度であまり動いていないことから、状況が変わらなければ、EC利用世帯の割合が100%になったとしても、全世帯ベースの消費支出に占めるEC支出の割合はそのレベルを超えないと見ることもできる。
祝 辰也
公益財団法人流通経済研究所 上席研究員/コンサルティング・リサーチ ビジネススクール 統括
消費者の購買先選択におけるECの位置付けを明らかにするために、食品、日用品、衣料品、家電製品の4つのカテゴリーについて、Web消費者アンケート調査を行った。購買頻度が高い食品、日用品では店舗アクセスの容易さから実店舗業態の利用率が高かった。購買頻度の低い衣料品や家電製品では、「店に行く必要がない」という理由からEC業態とくにEC専業業サイトの利用率が高かった。しかし衣料品、家電製品共にEC専業サイト利用者の40%以上が実店舗業態を併用しており、実店舗を利用する理由として「商品の実物を見たり手に取ったりできる」こと、「商品についての質問や相談がしやすい」ことが挙げられた。
キーワード: EC、実店舗業態、Amazon、楽天、業態利用山﨑 泰弘
公益財団法人流通経済研究所 常務理事
高橋 周平
公益財団法人流通経済研究所 研究員
新たな販売チャネルであるECの中で、中小事業者が利用する大手総合ECサイトの役割は大きいと考えられる。本研究では、EC事業者に対するインターネット調査を行い、成功事業者の要因を検討した。その結果、複数の総合ECサイトを併用することの有用性が確認された。また、成功事業者は総合ECサイトが提供する各種サービスの利用率が高く、事業戦略として、品揃えの差別化を図り、総合ECサイトを積極的に活用する傾向がみられた。
キーワード: Eコマース、EC化率、総合ECサイト、中小事業、品揃え沖 賢太郎
株式会社KDDI 総合研究所 フューチャーデザイン1部門 事業環境リサーチG シニアアナリスト
D2C(Direct to Consumer)とは、ブランドが顧客とダイレクトな関係を持つビジネス形態であり、直販とダイレクトコミュニケーションが特徴だ。増えつつある既存企業のD2C転換で優先課題となるのは既存流通との衝突の克服であり、2つのアプローチを紹介する。1つは、ブランドへの強い共感を集めての「突破型」D2C転換であり、NIKEが好例だ。もう1つは、ゼロベースで価値を刷新する「衝突回避型」D2C転換だ。流通の制約を考えず、本来提供したかった価値に立ち戻り商品を構想する。流通の作法から外れる商品は、小売店には扱いづらく正面衝突は起きづらい。歴史がない新興D2Cは世界観の構築に苦慮する一方、既存企業の持つ歴史が世界観の源泉になり得る。昔から続く価値観や創業理念などへの原点回帰が既存企業のD2C転換のスタート地点になるだろう。
キーワード: D2C (Direct-to-Consumer)、直販、顧客理解、世界観、共感望月 智之
株式会社いつも 取締役副社長
Eコマース(以下、EC)の重要性は、小売業を営むものであれば最早無視できない存在になったと言える。しかし、日本における小売市場全体にしめるECの比率は、経産省による令和2年度の調査で約8%。この数字だけを見れば、小売全体の規模から見て1割にも満たないECの存在が、なぜここまで大きくなっているのだろうか。その理由を紐解くと、技術の発達やその利便性だけでなく、消費者や買い物行動そのものの変化に気付くことができる。そんな消費者・買い物の変化と、ECが担う新たな役割について日米の事例を交えて紹介する。
キーワード: EC化率、デジタルシェルフ、買い物プロセス、スモールマス、サステナビリティ中村 博
公益財団法人流通経済研究所 理事/中央大学大学院 戦略経営研究科 教授
「破壊的イノベーション」をともなうネット通販が成長している。Amazonはその代表格であり革新的なDXを展開し急速な成長を遂げている。わずか、26年で世界第2位の小売業になり、世界1位のWalmartに迫っている。この急速な成長は、いわゆる「Amazon Effect」と呼ばれ、既存小売業は苦境にたたされている。例えば、長く小売ビジネス市場を牽引してきたSearsも倒産した。既存小売業は、そのビジネスモデルを変革せざるを得ない状況にある。既存小売業の代表格であるWalmartは自社が有する実店舗のビジネスを、DXを活用しながら「再定義」する戦略で業績をあげている。本論は、Amazonのビジネスモデルを「弾み車の理論」から検討し、既存小売業に与えるAmazon Effectを確認する。そして、既存小売業の対応戦略としてWalmartの「両利き経営」について検討している。
キーワード: 破壊的イノベーション、Amazon Effect、弾み車、両利き経営、店舗の再定義