コラム

2015/2/24
小売業のオムニチャネル戦略における物流システムの役割と課題
木島 豊希
公益財団法人流通経済研究所 研究員

1.オムニチャネル戦略における物流の重要性
 情報通信技術の発達や情報通信機器の普及に伴い、小売業と消費者との接点は、店舗だけではなく、各通信端末を通じたインターネット通信販売という売場や商品を受け取る個人宅など、場所や時間について個別化し多様化している。
 商品というモノを動かす物流は、様々な注文に応えるために複雑に集中し混雑する。小売業の物流は一般的に調達物流といわれるが、対消費者の販売物流も管理しなければならない。店頭では来店客がいるなかでオンライン受注商品を売場の在庫から引き当てていたり、物流センター段階では対店舗の出荷だけではなく消費者の注文にも対応することが必要になる。
 一方、消費者に対するサービスの観点では、物流が営業機能を果たす。注文商品を届けるという既に実現した需要に対する確実な物流活動や、販売から受取までの時間が短いなど販売を促進するサービスの一部として、消費者に対して直接的に機能する。実際に、消費者に対する納品リードタイムをいかに短くするかが事業競争の一つの要素になっている。
したがって、小売業の戦略としてオムニチャネル戦略が重要であるといわれているが、それを推進する物流システムの構築こそが重要なテーマであると考える。

2.セブン&アイHDのオムニチャネル戦略
 オムニチャネルは、全米小売業協会の「Mobile Retailing Blueprint 2.0」(2011年1月)の発表を受けて広く知られるようになり、Macy's社やWalgreens社、Walmart社など米国大手小売業の取組が先行している。わが国でも、セブン&アイHDが2013年度下期から具体的な取組を始めている。
 セブン&アイHDのいうオムニチャネルとは、「リアルの店舗やオンラインストアをはじめとする様々な販売チャネルを統合し、あらゆる顧客接点からシームレスに商品を注文・支払い・受け取りができる仕組みのこと」(投資家向けデータブック2013年度版)である。
 なかでもイトーヨーカ堂が関わる主な取組に注目してみると、@セブンネットショッピングにおけるグループ各社の商品を、イトーヨーカ堂の既存の物流システムを通じて、店舗で受け取れるサービスを提供すること、Aイトーヨーカ堂の商品を、グループ全体のインターネット事業専用の物流センターを通じて、消費者の自宅やセブン-イレブンの店舗で受け取れるサービスを提供することである。
 つまり、セブン&アイHDは、消費者に対して、販売商品と商品の受渡場所をグループ全体の複合的な販売サービスとして提供しており、物流システムはその販売サービスを生み出すグループ各社の水平的な連携を推進していると理解できる。

3.米国小売業のオムニチャネル戦略との共通点と相違点
 先行する米国小売業の取組と比較すると、その共通点は、商品の受渡場所としての店舗が顧客との接点として重要な役割を果たすことを認識していることである。Macy's社は、消費者が店舗、Webサイト、モバイル端末でシームレスに買物することを可能にし、近くにない商品でも他の店舗や物流センターから消費者宅まで届けたり、店舗での受取に対応している。Walgreens社は、リアル店舗を重視したデジタル戦略として、店舗での受取はもちろん、特にスマホアプリを活用したサービスを提供しており、消費者による在庫検索や注文に対応し、さらに消費者側の「在庫」を考慮した販売の推奨も行っている。Walmart社は、「オムニチャネル」とは明言していないが、「Anytime Anywhere」をスローガンにオンラインと店舗の一体化に取り組んでおり、商品の受取場所として機能する小型店舗の出店拡大や、大型のスーパーセンターを商品の販売拠点というだけではなく他店舗への商品供給拠点として位置づけている。一方、Amazon社も、コンビニエンスストア各社と提携し店舗での受取を強化したり、消費者が購入商品をセルフサービスで受け取る「Amazon Locker」を設置したりするなど、顧客との物理的な接点を広げている。
 相違点として注目したいのは、米国小売業では仕入先との物流の垂直的な連携が図られていることである。Macy's社は自社の物流センターに在庫がなかった場合、Walgreens社では特定の商品に限り、仕入先から直接消費者に配送することがある。一方、Amazon社でもメーカーの物流拠点から消費者に直送する「Vendor Flex」に取り組んでいる。

4.わが国小売業のオムニチャネル戦略における物流に関する課題
 上記の相違点から、オムニチャネル戦略における物流に関する取組の課題の一つに、仕入先との垂直的な物流連携を挙げておきたい。例えば、店舗や専用物流センターの後方拠点として仕入先の物流センターを位置づけ、小売業が常時取り扱えない商品の管理や欠品時の消費者に対する直送体制を構築することである。これにより、消費者に対する注文充足や納品リードタイムの短縮などのサービス水準を高めることができる可能性がある。
 小売業は、オムニチャネル戦略において、インターネット通信販売のWebサイトを開設するだけではなく、販売活動を意識した物流サービスの向上に向けて、より確実性が高い物流システムの再構築に能動的に取り組むことが必要になると考える。顧客との接点として重要な店舗やその先の消費者宅への商品供給を実現するために、組織内の水平的な連携だけではなく、それを補完する仕入先の物流機能の活用を改めて見直し、仕入先から消費者までの一連の物流システムを再構築することに期待したい。

コラムバックナンバー→