コラム

2018/1/5
年頭所感
2018年流通の課題と展望
青山 繁弘
公益財団法人流通経済研究所 理事長
サントリーホールディングス株式会社 最高顧問

 わが国の景気は回復基調にありますが、個人消費は持ち直しの動きがみられるものの、まだ力強さを欠いています。一方、人手不足は深刻化しており、人件費・物流費の上昇が企業収益の負担となっています。
 こうした中で、小売流通の変化スピードがより速くなっているように思います。流通に関わる事業者は、消費者行動の変化を敏感に捉え、将来の変化を見通して、先んじて打ち手を考えることが必要だと言えるでしょう。
 本稿では2018年の年頭にあたり、小売流通の変化の動向を確認するとともに、今後の経営課題について、考えを述べてみたい。

小売流通の変化動向
 小売流通における主要な業態の動向や注目すべき変化は、次のように整理できると思います。
・スーパー
 スーパーでは、総合スーパーの衣料品・住関連部門を中心に厳しい環境が続いていますが、総合スーパーと食品スーパーを合わせた食品部門の販売額は比較的堅調に推移しています。しかし食品スーパーの業績を見ますと、企業ごとに差異が生じつつあり、特に人口が減少する地方部で環境は厳しくなっています。また、パート社員の時給引き上げや社会保障により人件費が上昇し、増収を維持できても減益となる傾向も生じています。
 スーパーが食品の需要を継続的に取り込んでいくには、「中食」や「外食」の需要に積極的に対応することが必要です。このため、総菜部門を強化するとともに、イートインスペースを拡充する動きが活発になっています。成城石井ではこうした動きを一歩進め、食品スーパーとレストランを融合した業態「グローサラント」を開業しています。他のスーパーも「グローサラント」を研究業態と位置づけています。スーパーでは、消費者にとって魅力ある新しい食生活を提案することが重要だと言えるでしょう。
・コンビニエンスストア
 コンビニエンスストアは「利便性」ニーズに応える業態として成長を続けています。小売業の中で高い競争力・収益力を持っている業態ですが、新たな施策にも継続的に取り組んでいます。
 例えば、セブン-イレブン・ジャパンは、働く女性や単身世帯の増加といった市場の変化に対応するべく、コンビニエンスストアの新たな売場レイアウトを導入し、検証を進めています。カウンターでの「中食」商材の展開、冷凍食品の拡充など、完成された業態を更に進化させようとする取組みは注目されます。
 また、ローソンはRFIDを使ったレジ業務の効率化実験とともに、顧客自らがスマホアプリで商品バーコードを読み取り精算する新たな仕組みも開発し、夜間の無人オペレーションを進めることを計画しています。この仕組みはスキャン&ゴーと呼ばれるもので、同様の仕組みは米国ウォルマートでも導入されています。このような新たな取組みが小売店舗の生産性向上に結びつくことが期待されます。
・ドラッグストア
 ドラッグストアは店舗小売業の中で近年最も成長性の高い業態であり、昨年も業態全体の販売額は約5%増加しています。
 ドラッグストアの販売額が拡大している一因は、食品強化の動きが広がっていることにあります。食品販売額が最も大きいコスモス薬品は積極的な出店を継続しており、食品小売チャネルとしての存在感も高まっています。
 調剤もドラッグストアでの受取が着実に広がっています。高齢化が進む中で、ドラッグストアが生活支援拠点の役割を担うようになっていると言えるでしょう。
 都市部のドラッグストアでは、訪日外国人のインバウンド需要にも積極的に対応した店舗で、売上が伸びています。ドラッグストアは訪日外国人が化粧品・医薬品・生活用品等を購入する場として定着したと思われます。
 消費者のヘルスケアニーズはますます強くなっています。健康寿命の延伸は国の政策でもあります。医薬品・化粧品・食品・生活用品と専門サービスを総合的に提供して、ヘルスケアニーズに応えることが、今後のドラッグストアにとって重要となるでしょう。
・eコマース
 小売流通の中で最も変化が大きいのは、やはりeコマースの分野です。中でもアマゾンの動きは注目するべきであり、米国では昨年8月にホールフーズ・マーケットを約1.5兆円で買収し、食品店舗流通にも本格的に参入することとなりました。アマゾン・ジャパンの2017年の売上高は現時点で公表されていませんが、インターナショナル部門の第3四半期までの売上高が22%増加していることから、日本でも2桁成長していることが予想されます。AIスピーカー「Amazon Echo」は11月に日本でも発売されましたが、米国では既にビデオスクリーン付きの上位機種「Echo Show」を販売しています。これらの新たな機器を利用することで、消費者の買物行動がさらに変化していくことが予想されます。また、生鮮を含む食品宅配「Amazonフレッシュ」の展開も強化しており、ネットスーパー・生協宅配と競争しながら市場拡大が進んでいくと見られます。
 日本のEC事業者でも革新的な取組みが進んでいます。例えば、ZOZOTOWNを展開するスタートトゥデイは、身体の寸法を採寸できるセンサー内蔵のボディースーツ「ZOZOSUIT」を開発、無料配布を進めています。店舗に出向くことなく正確な採寸ができ、サイズ違いが生ずることなく、身体にフィットした衣料品を買物できれば画期的なサービスとなるでしょう。

今後の経営課題
 2018年には後期高齢者(75歳以上)人口が前期高齢者(65-74歳)人口を上回る見通しです。高齢化がよりディープに進行する中で、高齢者への対応も変えていくことが必要です。
また、人口減少下では顧客を拡げる全方位対応が基本であり、20-30歳代の若年層も戦略的な重要ターゲットにすべきでしょう。
 こうした市場のマクロ構造にしっかりと対応しつつ、消費者行動の変化を見通して、新たな商品・売場・サービス・テクノロジーを導入・検証・展開していくことが、今後の経営課題だと考えます。受動的に変化に対応するのでなく、自らが新たな変化を生み出すことが求められています。